大分地方裁判所 昭和24年(行)51号 判決
原告 武田保生
被告 大分県農地委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は「被告が昭和二十四年八月十二日別紙目録記載土地の各買収計画に対する原告の訴願についてなした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」という判決を求めその請求原因として別紙目録記載の土地はいずれも被告の所有であるが、訴外日代村農地委員会は右目録(1)の土地については昭和二十二年三月二十一日その他の土地については昭和二十三年九月三十日いずれも自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)に基き買収計画を定めた。(但し畑については同法第五条、宅地については同法第十五条、山林については同法第三十一条の各買収計画)尤も右目録(2)及び(3)の土地は同所千五百九十六番畑三畝三歩を分筆且地目変換したものであつて右委員会は分筆前の右畑三畝三歩につき昭和二十二年四月二十二日同法による買収計画を定めたのであるが、これに対し原告が異議を申立てた結果訴外委員会は右計画を取消し前記のように分筆並に地目変換の手続を了した上昭和二十三年九月三十日更に買収計画を定めたのである。よつて原告は目録(1)の土地に対する買収計画(以下畑六歩の買収計画と略称)については昭和二十三年八月二十四日、その他の土地に対する買収計画については同年十月四日それぞれ口頭で異議の申立をしたところ、日代村農地委員会は右異議申立はいずれも法定の縦覧期間経過後なされたものである。という理由の下に却下の決定をしたので原告はこれを不服として被告に訴願したところ被告も亦昭和二十四年八月十二日同一の理由で原告の訴願を却下する旨の裁決をした。しかしこの裁決には以下に述べる違法の廉があるから取消を免れない。すなはち、(一)本件土地の各買収計画について訴外日代村農地委員会はその都度自創法によつて要求せられている公告の手続をしていない。従つて右計画に対する縦覧期間は進行を開始するに由なきものであるからこれに対する原告の異議申立はいずれも期間経過前のものというべきである。仮に計画の都度即日公告がなされたとしても、前記のように原告は畑六歩の買収計画を除くその余の土地の買収計画に対しては計画樹立の四日後である昭和二十三年十月四日に口頭の異議申立をし尚念の為同月六日にも異議申立書を提出しているし、畑六歩の買収計画に対しては原告において計画樹立を知つた日に即日異議申立をしているからいずれも法定期間内の適法な異議申立である。(二)自創法によれば宅地及び田畑の買収計画についての縦覧期間は十日間、未墾地買収計画の夫れは二十日間と定められて居りこの期間の計算については民法の規定により初日を算入すべきではない。しかるに本件において定められた縦覧期間は右計算によればいずれも一日不足している。(三)別紙目録(2)及び(3)の土地は前記の如く分筆並びに地目変換の結果生じたものであるが同目録(4)(5)の土地も同様であり従前は同所千五百九十六番の一雑種地二畝四歩の一筆であつた。然るにこれらの土地に対する分筆並に地目変換の手続は訴外日代村農地委員会が実測にもよらず原告に無断で勝手にしたものであり且これは買収計画の前提となつているのであるから右四筆の買収計画は少くとも違法である。(四)本件土地の買収計画は訴外中村勉の申請に因つてなされたものであるが、原告は別紙目録土地中(2)の宅地の一部約二十坪を同訴外人に一年を限つて賃貸したことはあるがその他の部分は誰にも貸与使用させたことはない。又同訴外人は船大工で農業を営むものではないからかような者の申請に因り且同訴外人に売渡す目的の下にされた本件買収計画は違法である。殊に右計画当時日代村農地委員会の書記であつた福本進と右勉とは親族関係に在るので同書記が私情を挾んで勉の為に有利な取扱をし、又同委員会の農地委員が勉の請託に因つて本件買収計画を定めた疑もあるのである。(五)本件土地中畑の部分の買収計画当時の現況は農地ではなかつた。しかのみならず自創法による買収の目的は同法第一条に明記するところであるから同法による土地買収計画は自作農創設及び土地の農業上の利用増進の目的で樹立されなければならない。しかるに別紙目録(1)の畑六歩は買収計画当時、現況山林であり且地質は岩石で農耕地たるに適しない。又同目録(2)乃至(5)の宅地及び畑は宅地四十坪の一部に訴外勉が住宅を建設し、その他は同訴外人が船大工の仕事場として使用中のもので且海岸に近く高浪の際は海潮浸入し地質も岩石で農耕地には適しない。更に同目録(6)(7)の各山林は四十五度以上の急傾斜地をなし、地質は礦石様の岩石で土壊質はなく、これを開墾しても効果はなくむしろ耕作不能の地である。しかも前記のように本件土地の買収を申請した訴外勉は船大工を専業とし農業に精進する見込あるものとは認め難いからこのような土地を自創法によつて買収することは前に示した同法の目的に副はないこと明かである。よつて本件の買収計画はこの点においても違法である。(六)本件土地はいずれも買収計画に定められた地積に比し二倍以上殊に山林については十倍近くの反別を有する。そして日代村農地委員会は本件土地中前記(2)(3)(4)(5)の各土地の分筆並びに地目変換手続をなすに当りこれを実測することなく単に机上において地積を定めたのであるからこれは土地台帳法に違反し官庁に対し不実の申告をしたというに妨げない。しかも前記の如く右分割並びに地目変換手続は買収計画の前提をなすものであるから本件買収計画はこの点においても違法というべきである。以上の各理由により被告は原告の訴願を容認し右買収計画を取消すべきであるのにこれを却下する裁決をしたのは違法であるから右裁決の取消を求める為本訴に及んだ次第である旨陳述し被告の答弁に対し被告は別紙目録(3)の畑一畝二十三歩に対する買収計画はその主張の理由に因り、分筆前の右土地につき昭和二十二年四月二十四日買収計画を定めて居り唯分筆の結果計画書を訂正したに過ぎないのであつて原告主張の如く前買収計画を取消し改めて買収計画を定めたのではない旨抗争するけれども、かような場合に買収計画書の一部を訂正し前買収計画の効力を維持することは許さるべきでないし、もし許されるとしても前買収計画当時には前記一畝二十三歩はまだ存在しなかつたのであるからいずれにしても右畑に対する買収計画は違法たるに帰する。原告が昭和二十三年十月六日にした異議申立は書面に依るものでこれは住所地である延岡地区農地委員会を経由して提出したものであるが、それが被告主張の如く仮に大分県知事に送達されたとしても同知事は被告農地委員会長を兼ねているのであるから被告に対する申立として有効である。と述べた。
被告訴訟代理人は主文と同じ判決を求め答弁として別紙目録記載の土地が原告の所有であつたこと。右土地中(2)及び(3)の土地は同所千五百九十六番畑三畝三歩より又(4)(5)の土地は同番の一雑種地二畝四歩よりそれぞれ分筆並びに地目変換せられた土地であること。訴外日代村農地委員会が右目録(1)の土地につき昭和二十二年三月二十一日同目録(2)及び(4)乃至(7)の各土地につき昭和二十三年九月三十日前記分筆前の畑三畝三歩につき昭和二十二年四月二十四日それぞれ自創法に基く原告主張の買収計画を定めたこと。右畑三畝三歩の分筆並に地目変換は買収計画後行はれたこと。原告が本件各土地の買収計画に対し日代村農地委員会に異議の申立をしたところ同委員会はこの異議申立はいずれも法定の縦覧期間経過後なされたものであるという理由の下に却下の決定をしたので、原告はこれを不服として被告に訴願したところ被告も亦昭和二十四年八月十二日同一の理由で原告の訴願を却下する旨の裁決をしたことは認めるけれどもその余の原告主張事実は全部否認する。前記千五百九十六番畑三畝三歩については昭和二十二年四月二十四日買収計画がなされたのであるがその後前記のように右畑は分筆並に地目変換の結果日代村農地委員会から被告に対し右買収計画書の一部訂正申請があつた。よつて被告は昭和二十三年十二月十七日買収土地である右畑三畝三歩の表示を別紙目録(3)のように訂正し残りの宅地四十坪については同年九月三十日日代村農地委員会において前記の如く宅地買収計画を定めたのであるから右目録(3)の土地に関する限り買収計画は依然畑三畝三歩としてなされた前記計画が有効に維持されている。而して日代村農地委員会は本件土地の買収計画については計画樹立の都度即日その旨を公告し且法定の期間これに関する計画書類を縦覧に供した。よつて縦覧期間の最終日は別紙目録(1)の土地の買収計画については昭和二十二年三月三十一日、同(3)の夫れについては同年五月四日、同(2)(4)(5)の夫れについては昭和二十三年十月十一日、同(6)(7)の山林については同年同月二十日である。しかるに原告は本件七筆の土地の買収計画に対し昭和二十三年十二月二十日に異議申立をなし又山林二筆については昭和二十四年三月十六日重ねて異議申立に及んでいる。しかしいずれも既に縦覧期間を経過した後の申立で不適法たるを免れないので被告は前記の如く原決定を維持する本件裁決をなしたのであつて正当な措置である。原告は昭和二十三年八月二十四日及び同年十月四日、同月六日に右異議申立をした旨主張するけれどもそのような事実はない。尤も同年十月九日延岡地区農地委員会より大分県知事宛に送付し来つた本件農地買収令書に原告の日代村農地委員会に対する本件土地の買収計画取消申請書と題する書面が添付せられていたが、同知事は此書面は右買収に対する陳情として返送に係る買収令書に添付し来つたに過ぎないもので日代村農地委員会には別途提出しあるものと思料しそのまゝ保管したものである。而して、訴外中村勉は本件土地を大正十年頃原告から賃借しそれ以来現況に従つて宅地及畑はそれぞれ宅地並に農地として又山林は未開墾地として管理中であつたが同訴外人から昭和二十三年九月二十七日買収申請がなされたので日代村農地委員会は同訴外人が船大工兼農業であるが農業に精進する見込ある者と認め本件土地について買収計画を定めて同訴外人に売渡した次第である。原告は又別紙目録(2)乃至(5)の土地の分筆並びに地目変換の手続が違法に行はれた旨主張するけれどもこれは自作農創設特別措置登記令第七条の規定に則つたもので違法ではない。これを要するに本件裁決は正当であるからその取消を求める原告の本訴は失当である。と述べた。(立証省略)
三、理 由
別紙目録記載の土地が原告の所有であつたこと、右土地中(2)及び(3)の土地は同所千五百九十六番畑三畝三歩より又(4)(5)の土地は同番の一雑種地二畝四歩よりそれぞれ分筆並に地目変換せられた土地であること、訴外日代村農地委員会が右目録(1)の土地につき昭和二十二年三月二十一日、同目録(2)及び同(4)乃至(7)の各土地につき昭和二十三年九月三十日それぞれ自創法に基く原告主張の買収計画を定めたこと、原告が右目録記載の各土地の買収計画に対し日代村農地委員会に異議の申立をしたところ同委員会はこの異議はいずれも法定の縦覧期間経過後なされたものであるという理由の下に却下の決定をしたので原告はこれを不服として被告に訴願したところ被告も亦、昭和二十四年八月十二日同一の理由で原告の訴願を却下する旨の裁決をしたことは本件当事者間に争がない。
そこで先ず原告のした右異議が果してその主張の理由に因り法定の縦覧期間経過前になされた適法な申立であつたか否かを検討してみる。ところで別紙目録土地中(3)の畑一畝二十三歩につき定めた買収計画の日時に関し原告は右土地分筆前の畑三畝三歩につき定めた買収計画は分筆並びに地目変換の結果日代村農地委員会においてこれを取消し分筆後の右畑一畝二十三歩については昭和二十三年九月三十日に改めて買収計画を定めた旨主張するけれどもかような事実を確認すべき適確な証拠はない。却つて日代村農地委員会が分筆前の畑三畝三歩につき昭和二十二年四月二十四日自創法による買収計画を定めたこと、右畑の分筆並に地目変換はこの計画樹立後行はれ且これによつて生じた別紙目録(2)の宅地四十坪については昭和二十三年九月三十日別途に宅地買収計画が定められていることは当事者間に争がないし、農地の買収計画は土地の公簿上の地目如何に拘らずその現況に従つてなされるものであることを考慮に入れると反証のない限り別紙目録(3)の畑の買収計画は被告主張の如く、昭和二十二年四月二十四日に畑三畝三歩として樹立せられたもので唯その際目的土地の地積の表示を誤つたに過ぎないものと認めるのを相当と考える。
而して成立に争のない乙第一乃至第八号証の各記載に証人広瀬恒生の証言を綜合すると日代村農地委員会は本件土地の買収計画につきそれぞれ前記に認定した各計画樹立の日の翌日自創法施行令第三十七条所定の方法に従つてその旨を公告した事実、右公告により各買収計画に対する縦覧期間の最終日は別紙目録(1)の夫れについては昭和二十二年四月一日、同(3)の夫れについては同年五月五日、同(2)(4)(5)の夫れについては昭和二十三年十月十二日、同(6)(7)の夫れについては同年十月二十一日であるのに原告はこれらの期間をいずれも経過した昭和二十三年十二月二十日に至つて始めて右計画に対する異議申立に及んだ事実をそれぞれ認めるに十分である。右認定に反しこの点に関する原告の主張に副う証人川元千代吉の証言は措信し難く他に右認定を覆して原告主張事実を肯認し得る確証はない。尤も真正に成立したものと認める甲第二、三号証の各記載に証人其田文雄の証言を綜合すれば、原告は昭和二十三年十月十日本件土地の買収計画に対する異議申立書を作成し住所地の延岡地区農地委員会に対し右土地の買収令書と共に提出したので(買収令書は返戻の目的で)同委員会は令書の発行人である大分県知事に宛一括してこれを郵送し、此郵便物は同月九日同知事に送達されたけれども、右異議申立書は現在に至る迄日代村農地委員会に到達していない事実を認めることができる。しかし本件買収計画に対する異議申立はその審査決定庁である日代村農地委員会に対してこれをなすべきことは自創法第七条の規定に照して明かであり、しかも右申立につき特に住所地の市町村農地委員会を経由すべきことを要求した法規は存在しない。してみると原告が前記のように延岡地区農地委員会に対して異議申立書を提出してもその時を以て適法な異議申立の日時と認める訳には行かないのでありしかも前認定の如く、右申立書は現在に至る迄日代村農地委員会に到達していないのであるから結局適法な縦覧期間内に異議の申立がなかつたものというのほかはない。原告は大分県知事は被告農地委員会の会長でもあるから同知事に対し右申立書が到達した以上被告に対する異議の申立として有効である旨主張するけれども、仮にそうとしても県農地委員会は市町村農地委員会に対する一般的な監督行政庁ではなく自創法第四十七条の場合のほか当然には市町村農地委員会の権限を代行することはできないのである。されば本件について右例外規定の適用があるという事実関係の立証がない以上右異議申立は尚不適法たるを失はない。唯前記認定事実に徴すれば延岡地区農地委員会に提出した前記異議申立書が不幸にして法定期間内に日代村農地委員会に到達しなかつた原因の大半は係員の不注意に因るものであることが窺知できるけれども前記のように右異議申立につき住所地農地委員会を経由すべきことを要求した規定もなかつたのであるし自創法には法定期間徒過後の異議申立受理につき、訴願法第八条第三項のような特別規定はなく、右異議を一種の訴願と解するとしても自創法の立法経過目的並に同法第七条第一項の規定の形式等に鑑みればむしろ本件については訴願法の右規定の適用はないものと解するのが至当であるから右期間徒過に因る不利益はやはり原告自らこれを甘受すべきであろう。
そうとすると本件土地の買収計画に対する原告の異議申立は結局縦覧期間経過後の不適法な申立たるを失はないから同様の見解の下に原告の訴願を排斥した被告の本件裁決は正当というべきである。
次に原告は右裁決には尚主張の違法(原告主張の(二)以下)がある旨主張するけれどもこれらはいずれもその主張によつても明かなように本件土地の買収計画について存する実体上並びに手続上の瑕疵を理由として買収計画の違法を主張するに帰するのである。しかるに本訴は本件裁決自体を独立の行政処分としてこれに存する違法を理由にその取消を求めるいわゆる抗告訴訟であるが、右裁決は原告も認める如く右買収計画の適否を判断しているのではなく、単に右異議申立が期間経過後のものであるといういわば形式上の理由の下に原告の訴願を却下したに過ぎないのであるから原告の右主張はいずれも右裁決を攻撃する理由にはならないのであつて到底採用することはできない。よつて本件裁決を違法としてその取消を求める原告の本訴請求は理由なきに帰するからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 木本楢雄)
(目録省略)